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わが国は現在、未曾有の高齢社会を迎えようとしている。下図に示されるように、2055年には我が国の人口ピラミッドは、完全に逆ビラミッド型になると推計されている。問題は深刻であり、1.3人の働き手で1人の高齢者を支えなければならなくなる。我々は、この問題の根源は、高齢者層をまず、「支えられる人」と一方的に断じ、国力のエンジンとしての役割を考えていないところにあるのではないかと考えている。実際に、60歳以上の89.8%は日常生活において全く不自由なく過ごすことにできる元気高齢者であり、社会で活躍する可能性を持つ存在であるといえる。
経験や知識において優れる高齢者の労働資源を積極的に社会に還元することができれば、我が国は依然として豊富な労働力を有していると見ることができる。本研究開発では、情報通信技術によって高齢者の活力を支援するイノベーションを実現し、新しい社会の仕組みを作っていくことを提案する。極端なことを言えば、いわば逆三角形の人口ピラミッドを再びひっくり返した見方の実現を目指す。そうすることで、非常に安定した社会構造が見えてくる。2055年に40%に達しようという高齢者をペイロードと考えるかエンジンと考えるかで将来の社会の様相は大きく変わってくるはずである。
どのようにして人口ピラミッドを逆転し、高齢者層の力で将来の社会を支えることができるであろうか。高齢者は、現役時代と比べて時間的拘束の少ない就労形態を望み、フルタイムでの就労は望んではいない。健康上の理由などで定期的に職場に赴くことができない状況も容易に想像される。 しかし、雇用する側から見た場合、安定的な労働力として見ることができなければ採用することが難しくなるという課題がある。高齢者の就労における、就労側と雇用者側の意識のギャップを埋めるために、本研究グループではMosaic型就労モデルという新しい就労システムを提案している。
Mosaic型就労モデルでは、個々の時間や能力を組み合わせてバーチャルに一人分の働きをこなす仮想労働者を構成することで柔軟な就労と安定した労働力の供給の両立が可能となってくる。下図に示すように、複数人の高齢者、さらには若者それぞれの得意分野を組み合わせることで、仮想的にパーフェクトな労働力を合成する。クラウドコンピューティングの力により高齢者のクラウドソーシングを実現するMosaic型就労モデルが「高齢者クラウド」の目指すところである。
「高齢者クラウド」では、高齢者の情報発信を促進することでクラウドコンピューティング基盤上に高齢者の経験・知識・技能情報を蓄積する、知識取得インタフェース。収集された高齢者の情報を分析することで個人のスキルや知識、理想とする働き方として仕事データとのマッチングなどを行う、知識構造化プラットフォーム。実際に、就労現場でMosaic型労働者を構成する。もしくは、クラウドコンピューティング基盤上に蓄積された知識情報を直接利用するための、知識伝達インタフェース。この3つの要素技術を構成要素としている。